【アートっすね!】
私の父は板前をやっていたことがあって、食材の目利きや味加減が完璧でした。私や母の作る料理に文句をつけることは一切なかったので、とてもいい両親に恵まれたと胸を張って言えます。
そんな父がある日、骨董品点で衝動買いしたといって小ぶりな包丁を見せてきました。「いい面構えをしているんだよ」といって真っ先に台所で砥石を出して研ぎだしてしまい、私と母があっけらかんと見ていると、そのまま1時間ほど砥石の目を変えながら格闘し、「この辺でいいだろう」と包丁をふきんで拭いたあと、私を呼び寄せました。
「ほら、すごいだろう。ちょっと研いだだけでこんなに良くなった」と自慢げな父。研ぎ澄まされた包丁の刃が鏡のようになっており、隣に置いた中華あじの瓶の小さな取扱説明文がハッキリと読み取れるぐらいでした。凛としたたたずまいに宿る危険と表裏一体の美しさ。日本刀が好きな人って多分こういう理由なんだなとなんとなく感じました。
その切れ味には私も母も病みつきになり、本当に刃を置いただけで大根が切れるので、我が家ではしばらく大量のサラダと毎晩戦わないといけませんでしたが、あの冷たくも妖しい刃の輝きを見たときの感動は忘れがたいものがあります。
長くなりましたが、日本の伝統にアートを感じたおはなしでした。